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始動した宇都宮LRTの課題(3)——ナショナルミニマムの限定提供


 ところで青森では拡大した都市空間を3区分する計画を策定した。市域を「インナー」、「ミッド」、「アウター」の3つに分けて、機能別に目的を設定するという。コンパクトシティは一面で、最少コストで最大サービスを提供することを空間化した市街地モデルなのだろう。したがって「ナショナルミニマムの地理的表現」だとの指摘もある。 [鈴木文彦(2012)「コンパクトシティ時代における中心市街地の新たな役割~中心志向から脱却し"住まう街"へ」大和総研、2012年9月26日付]。


 コンパクトシティの内側に居住空間を作り、インフラ整備などの行政資源を優先的に投入する。かりにこの空間の外に居住地を選ぶ場合には、相応の負担を住民に要請する。突き詰めれば自治体は、将来的に行政サービスの届かなくなる地域を提示するわけだ。この場合のまちづくり計画とは、「ナショナルミニマムの現物給付」として資源を優先配分する地域を決めることだ。コンパクトシティの本質はナショナルミニマムの提供区域を限定するものなのである。


 したがってそれは、市街地の活性化という従来方式とは一線を画す。公共インフラを優先配分する居住区域と、インフラ整備を原則として自前でまかなう商業・産業の集積区域とを作る政策だ。さらに、各々の集積が官民の連携による公共交通でネットワーク化され、その総体を新たな「街」ととらえる。これが人口減少社会に適応しうるまちづくりなのだろう。


 そのためには市民と行政が、双方の納得する計画を粘り強く練り上げていく必要がある。要するに、コンパクトシティには地域自治が不可欠なのだ。地域自治はまず都市の拡大策(市町村合併)によって着目された。しかしその縮小策(コンパクトシティ)においては必須のアイテムである。


 さて、宇都宮のLRTは開業からすでに4件以上の接触事故を起こした。軽自動車でさえ装備する安全装置もなかったようだ。ヨーロッパのパークアイランド構想などが引照されたとも思えない。郊外から市街地に集中する自動車を、公共交通に誘導して渋滞を緩和する手法である。中心部への車の乗り入れ制限を実施しないのでは、単なる通勤通学のための乗り物を超えるのも難しい。しかも作新学院大学のスクールバスは類似の路線を走っている。


 いまのところ宇都宮のNCC(ネットワーク型コンパクトシティ)構想は全域拠点方式を採用しているようだ。佐藤市長も「宇都宮市は全地域に拠点をつくって維持しようという理念」だと述べた。ただし、人はかわり制度はうつろう。LRT の成り行きを含め、コンパクトシティ計画における地域自治を今後も見守り続けたい。(この項終わり)



[参考文献]


 栃木県地方自治研究センター編『宇都宮市の挑戦(下) ネットワーク型コンパクトシティの研究』2021年。


「地方のミライ コンパクトシティ破綻」『毎日新聞』2023年9月20日付、1面。

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