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始動した宇都宮LRTの課題(1)

 宇都宮市でLRTがついに開業した。2023年8月26日(土)だ。LRTとは次世代型路面電車のことで、Light Rail Transitの略である。軽量の小型車両を使い、市街地は車との共用軌道を走り、近郊では専用軌道を設ける。すでに06年からの富山市などで運行されている。今回の宇都宮の参加によって、日本における路面電車の運行事業者は19法人を数え、路線の総延長はのべ230キロ弱になった。まずは歓迎して今後の成り行きを見守りたい。

 思えば長い間の悲願であった。わたしにも忘れがたい光景がある。1999年12月だから、もう四半世紀も前のことだ。市ヶ谷の私学会館で、次年度に設置される作新学院大学の新学部教員の顔合わせがあった。会の冒頭で船田元理事長が、概要次のように挨拶した。「今は学バスでの通勤になりますが、もうすぐ宇都宮駅前から本大学まで電車が走ります。少しの辛抱です。」この都市政策に近い立場にいたはずの船田さんが言うので、大いに期待して待った。しかし、わたしが東洋大学に移る10年度末までに、理事長の言う電車通勤はかなわなかった。いわば見果てぬ夢になっていたのだ。

 カミナリが多いので宇都宮は「雷都(らいと)」とも言われる。これをもじってLRTは「宇都宮ライトレール」と名付けられた。愛称はライトラインという。全線を新設する開業は日本初の快挙なのだ。宇都宮駅東口と芳賀・高根沢工業団地とを結ぶ全長14.6キロの路線である。この工業団地にはホンダの研究開発拠点もある。LRTによって脱炭素化の動きに一石を投じることも期待される。

 総事業費684億円の半分は国が補助し、残りの半分は宇都宮市と芳賀町、栃木県が負担する。国交省の統計では、LRTの整備費は1キロ当たり40億円くらいで、モノレールの100~150億円や、地下鉄の200~300億円よりも破格に安い。さらに公設型の上下分離方式を採用する。つまり設備の保有は宇都宮市と芳賀町、運行は第三セクターの宇都宮ライトレールが行う。全路線が複線の仕様で、低床式車両HU300形を3車体使う。乗車定員は160人だ。 (この項続く)



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